第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「お、おかしいって思われるかもしれないんですけど、どちらも嘘じゃないことは分かるんです。あの人達は心の底からそう思っている。だから余計に分からなくなって……」
「おかしくはありませんよ。それが貴女の術式ですから」
「そ、そうなんですか?」
「目を見た相手の嘘が分かる術式です。それを無意識に使っていたのでしょう。実際、学生時代にはどんな小さな嘘でも分かるから自分の前で嘘を吐くなと念押しされましたし」
「私、そんなこと言ってたんですか……?」
「ええ、自信満々に。トランプゲームのダウトなんかは負け無しでしたよ」
懐かしむように目を細める七海を見て、胸の奥がきゅっと切なくなる。
夏油さんもそこにいたのだろうか、
その時から既にあんな考えを持っていたのだろうか……
「……話を戻しましょうか。久織さんを助け、優しくしてくれた人達が実は非術師を人間として見ておらず、その認識の解離に困惑していると」
「は、はい……私には非術師が猿だなんてどうしても思えないんです。彼らにも家族がいて、子育てしたり仕事をしたりしているのに、呪術を使えないというだけで線引きされるなんて……」
確かに呪術師と非術師は生物学的に見れば同じ人間だ。
だがそれで全て丸く収まる程、人間が単純な生き物ではないことを七海は知っている。
奈緒を戸惑わせている人物の考え方に賛同はできないが、そこに至るまでに何があったか推し量ることはできるのだ。