第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
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2人は近くの喫茶店に入っていた。
店内にはゆったりとした曲調の音楽が流れ、奥まったこの席の会話は他の客にはまず聞こえない。
奈緒に好きな物を注文するように促し、七海は紅茶を注文して、記憶喪失の彼女に不信感を抱かせないように、そして彼女が記憶を取り戻す一助になれればと今の職業やかつて呪術高専に通っていた頃のことを説明する。
「……私は事情があって高専を辞めましたが、久織さんはその後も呪術師を続けていました。そして、任務中に呪霊に襲われて亡くなったと……どうやって助かったのか、聞いてもいいですか?」
「私にもよく分からないんです。真っ暗な場所で何かに押し潰されそうだったことは覚えているんですけど、気づいたらベッドの上で……」
これまで七海の誠実な態度や何一つ嘘を言っていないことが安心材料となり、奈緒も素直に答えた。
「その、どうやって助かったかは分からないんですけど、私を助けてくれた人は目が覚めてから私を飲み込んだ呪霊を見せてくれたんです……目が6個あって、長い爪がある足が8本もあって、すごく怖くて……」
その言葉に七海は目を見張った。
“呪霊を見せてくれた”?
誰かが彼女を飲み込んだ呪霊を祓ったのかと思っていたが、祓ったのならもうその呪霊を見ることはできない。
七海の脳裏にある人物が思い浮かぶ。
現代最強と名高い先輩とかつて肩を並べて、その後突如として高専を去った彼の術式ならば祓わずに彼女を助け、更に後から呪霊を見せることも可能だ。
ゴクリと息を呑み、更に踏み込む。
「呪霊を見せてくれたというのは誰なんですか?」