第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
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静かになった部屋の中、奈緒は両手で顔を覆って項垂れた。
呪術師とそうでない人……
夏油さんはそうでない人達のことを心底嫌って『猿』と呼んでいる。
菜々子ちゃんと美々子ちゃんもそう。
きっと本気で皆殺しにするつもりなのだ。
『家族』を守るために。
でもそんなの間違っている。
そうでない人達の中には幼い子供……菜々子ちゃん達と同じ年頃の子供やそれより小さい子だって含まれている。
何も悪いことなんてしていないのに呪術師でないからという理由で一方的に殺していいはずがない。
あんなに優しい彼とこんな危険な思想がどうしても結び付かず、何故、どうしてという疑問が頭の中をグルグルと廻り続ける。
夏油さんは優しくて、菜々子ちゃんや美々子ちゃんもあんなにいい子なのに……!
穏やかに笑う彼らが脳裏に浮かんだ直後、まるで真っ黒に塗り潰すかのような言葉が響く。
『なんでサルをサルって言っちゃダメなの?』
『ちがうよ。あれはサルだよ』
『呪いを無くす為の1番の効果は、あの『猿』共が居なくなればいいんだ』
あぁ、これが夢だったら早く覚めて……!
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結局、奈緒はいたたまれず、気づくと外に飛び出していた。
行くあてもなく歩くと目に入ってくるのは楽しそうにお喋りする下校中の学生、買い物に出ている家族、犬と散歩している老人、ジョギングする若者……
私達と何も変わらないはずなのに、夏油さん達からするとこの人達は皆『猿』で、居なくなってほしい人達なんだ。
私、どうすればいいんだろう……?
困り果てて歩き続けていると、
「久織さん!?」
「……?」
知らない声に振り向くと、スーツを着た背の高い金髪の男性が驚いた表情でこちらを見ていた。