第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「呪いを生産している『猿』共の生活を守る為だよ」
グッと夏油は球体にした漠を握った。
その表情からは、『猿』と呼んでいる人達への嫌悪感が滲み出ていた。
「滑稽な話だろ?『猿』共が生産した呪いを祓うために、大切な家族達の命が消えていくのに……祓っても、祓っても『猿』共は呪いを生産し続ける。……私達術師からは呪いは生まれないのに……。呪いを無くす為の1番の効果は、あの『猿』共が居なくなればいいんだ」
ゆっくりと、それでも言葉をとぎれる事なく続けて、夏油は自分の胸の内を奈緒に伝えた。
それを聞いている奈緒の表情がどんどん青白くなっていくのが分かっているのに。
「ここに居る家族は、そんな私の思想に共感してくれている者達だ」
それは不思議な感覚だった。
夏油さんの言っている言葉の意味は完全に理解出来ないのに、夏油さんが『嘘』をついていないのは分かった。
そして私は、同じ声で全くの別の言葉を聞いた事がある気がした。
『弱者生存それがあるべき社会の姿だ、弱気を助け強きを挫く呪術は非術師を守る為にある』
『はぁー…俺本当にその正論嫌い。そうやって後輩を洗脳して宗教でも開くつもりですか?っての!!』
『……黙ってろ、悟……』
コレは何の記憶だろうか。
何処で、誰と、そんな事は思い出せもしないのに、どうしてこんな会話が急に思い出されて、何でこんなに……胸が痛いのだろうか……。
「……人を……殺すって事ですか?」
涙が喉に詰まって、奈緒は嗚咽が出るのを我慢した。
「……大切な家族を守りたいって話だよ……」
奈緒は夏油の言葉を聞くと、大きく息を吐いた。
「……少し……1人にして下さい……」
それだけ伝えるのに精一杯だった。