第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「君に見えているこの呪霊だが……お察しの通り、君を喰った霊だ」
その異形の姿の呪霊を、夏油はスリっと撫でて奈緒に見せた。
呪霊は夏油に懐いているかの様に、触れられているその手に身を任せている。
記憶が無いのに、その呪いが現れてから体が震えた。
自分が喰われたからでなく、その呪いが放つ異質な呪力に対して、今の奈緒は自分を守る為の呪力を練れないからだ。
「それで、この呪霊や呪いはどうして発生すると思う?」
夏油が漠から目を離して奈緒を見ながら聞いた。
夏油の問いの答えが分からずに、奈緒は首を横に振る。
「呪霊は『猿』共によって生産されていくんだよ。つまり、久織さんを殺しかけたのは、あの溢れかえっている『猿』共の呪いなんだよ」
「…呪い……ですか…?」
誰かが私を呪ったって事?
私は記憶を無くす前は、誰かに怨まられる様な生活を送っていたのだろうか…。
「『君達』呪術師は、『猿』共が生産した呪霊をせっせと駆除するお掃除屋さんの様なモノだ」
そう言うと、夏油は漠に手を当てて球体にした。
漠の姿が無くなると、奈緒の体の震えも止まった。
「私の祓い方はこうでね…『呪霊操術』と言うんだ。術師によって祓い方は様々で……君は…あまり呪いとは相性が良い術式では無かった…」
「……私は…お仕事に失敗したと言う事ですか?」
奈緒の質問に、夏油は少し目を伏せた。
「失敗は…その術師の『死』を意味する。そうして死んでいった家族達を、ずっと見てきた」
それは奈緒も経験している灰原の死。
だけど奈緒にその記憶は無かった。
「何故君達が、命をかけてまで呪いを祓うのだと思う?」
問われる夏油の問いに、何一つ答えられない。
もどかしい気持ちが込み上げてくるのに、首を振ることしか出来なかった。