第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
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「菅田さん、次の猿は?」
「次ですか?次は呪いを集める猿ですねー」
「ええー………今日はもういいかな……」
盤星教が残したこの建物が夏油の資金源だった。
呪いを運んでくる猿。
お金を運んでくる猿。
様々な猿がここには集まる。
それだけの為に、夏油は非術師と面会する。
それ以外では、夏油は極力非術師とは接点のない生活をしているが、それを他の家族に促す事はしていない。
「夏油〜様〜」
夏油を見つけて美々子と菜々子が駆け寄って来る。
その2人を見つけると、夏油はいつもの様に微笑する。
「おかえり、ここは猿共が来る場所だから汚いよ」
近付いて来た美々子と菜々子の頭を撫でながら、夏油は優しく言った。
そして、その後ろに居る奈緒に目を向けるとまた優しく微笑む。
「少しは気分転換になったかい?」
そういつもの笑顔で話しかけてくる夏油に奈緒は顔を顰めた。
優しい笑顔で人を猿と言う夏油に目眩がする。
「夏油…さん…」
喉の渇きは治らず、声が掠れて出ている様だった。
真っ青な顔をしている奈緒に、美々子が心配そうに服の裾を掴んだ。
「いっぱいサルが居る所行ったから疲れちゃったー?」
無邪気な顔で笑いながら……そして今は奈緒を心底心配しながら、人を『サル』と呼んでいる。
その事実に思わず奈緒は足元がふらついて額に手を添えた。
夏油は一瞬目を細めるが、すぐにいつもの表情を作った。
「それは大変だ。すぐに休んだ方がいい」
そう言って奈緒の肩を支える様に掴んだ。
夏油の手に、奈緒は顔を上げた。
「部屋まで送るよ」
優しいその眼差しに目が霞むのは涙が出たからだ。
そして、奈緒のその涙の意味を分かっていながら、夏油は奈緒の顔を隠す様に3人から離れた。