第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「私はちょっと疲れちゃったな、どこかで休憩したいなぁ、カフェとか……?」
と言いつつ2人の顔を見ると2人とも期待の眼差しに変わっている。
分かりやすくて本当に可愛い。
「休憩したい人ー?」
「はーいっ!」
元気の良い返事と共に勢いよく手を挙げる菜々子と無言なものの、手はしっかり挙げる美々子。
愛らしい姿に奈緒の頬が緩んだ。
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まだお昼には少し早い時間帯だからか、入ったファミレスは空いており、3人で窓際の席に座る。
ワクワクしながら注文した後、菜々子と美々子は窓の外を見てクスクスと笑い合っていた。
「サルがいっぱいだね、美々子」
「うん、いっぱい」
奈緒だけその会話の意味が分からず、思わず聞き返す。
「サル?サルって動物の?」
「そうだよ!」
ここは都心、野生の猿なんている訳ない。
この子達はいきなり何を言い出すのか。
窓の外を見ても1匹たりとも見当たらない。
奈緒が首を傾げたのを見て、菜々子は指し示した。
「あれもサル、そっちもサル!」
通りを行き交う人々を指差した菜々子に奈緒は驚愕する。
「そ、そんなこと言っちゃダメだよ」
「どうして?」
「なんでサルをサルって言っちゃダメなの?」
美々子まで同調していることに更に驚き、慌てて2人を諭す。
「なっ、あの人達は人間だからだよ、私達と同じ人間」
「ちがうよ」
「えっ……?」
「あれはサルだよ。夏油様が言ってたもん」
「そうだよ、わたしたちを叩いて、どなって、閉じこめたサルども」
幼い2人の固く冷たい声と瞳の中に渦巻く怨嗟に奈緒は言葉を失った。
……一体、2人に何があったの?
人のことを猿だなんて……
本当に夏油さんが教えたの?
あんなに優しい夏油さんが……?
なんでそんなことを……?
頭がひどく混乱して思考は堂々巡りしている。
口の中がカラカラに乾き、注文した料理を飲み込むのがやっとだった。