第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
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夏油から頼まれた買い物を済ませて時計を見ると、まだ昼にもなっていない時間帯だった。遊びに行く時間はたっぷりある。
事前にこれを見越していた夏油の優しさに感謝して、菜々子と美々子にどこに行きたいか尋ねると「電車に乗りたい」と返ってきたので、早速駅に向かうことにした。
通勤ラッシュを過ぎた電車は空いており、奈緒ははしゃぐ2人を眺めながら窓の外を流れる景色に目をやる。
何か記憶を取り戻すきっかけにならないかと思ったものの、この景色にも全く心当たりはない。
ほんの少しだけ心に影が差したが……
「次でおりるー!」
元気な声にその影はかき消された。
ドアが開くなり走り出した菜々子を美々子と一緒に追いかけて駅を出ると、やはりここも初めて見る場所だった。
こんな知らない場所で菜々子が迷子になったら危ない。
奈緒は美々子とはぐれないように手を繋ぎ、急いで菜々子を追った。
「菜々子ちゃん、待って……!」
ようやく菜々子の手を捕まえたのはしばらく走った後。
「ビルいっぱい!」
「なんだかオフィス街に来ちゃったね……」
周りには高層ビルが立ち並び、通りを歩くのはスーツを着た大人ばかりで菜々子と美々子を連れた奈緒は明らかに浮いている。
「……お仕事してる人がいっぱいいるし、私達は駅に戻ろうか」
2人の手を引き、駅までの道のりを少し歩いたところで美々子の表情が曇っていることに気づく。
「美々子ちゃん、疲れてない?大丈夫?」
電車を降りてここまで菜々子を追って走り、休みなく駅に引き返している。小学生の足にはきついだろう。
菜々子はまだ元気だが、もしかすると無理をしているかもしれない。
2人は奈緒に気を遣っているのかお互いの顔を見合わせている。
そのいじらしい様子を見て奈緒はあることを思いつき、口を開いた。