第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
・
・
・
『夏油〜センパーイ〜!!』
夏油を見つけると、奈緒は泣きながら夏油の元に走って来る。
大きな声で呼ばれて、夏油が振り向くと奈緒はすぐに夏油に抱き付いた。
『もう五条先輩嫌です〜!なんであの人帳張るの忘れるんですか〜!?インフラ壊さなきゃ呪霊祓えない病気ですか〜!?私まで始末書になりました〜!!』
ガシッと腰に腕を回されて、ワンワン泣く奈緒に『ご愁傷様…』それしか言葉は出なかった。
上も早く諦めればいいのに。
悟に後輩の育成なんか無理なんだから。
こうして後輩に泣きつかれるのは日常茶飯事だ。
『久織さんは、悟が苦手な様だね…』
奈緒の頭にポンと手を置くと、奈緒はグズッと鼻水を啜った。
『……刺激が強すぎるんです…五条先輩の『強ければなんでもオッケー』て考え方に、正直ついていくのがやっとです…』
かなり五条悟に当てられている様だった。
確かに、呪術師をやっていて彼を見ていると『自分は何なのだろう』と思えてしまう瞬間が必ずある。
だけど夏油は、奈緒はそれでも喰らい付いて、呪術師になれるとこの時には確信していた。
『ここでの生活は辛いかい?』
たまにこうして弱音を吐く奈緒は、寮に入り、親元から離れて暮らしている。
まだ高校生になりたての幾許もない女の子なのだ。
夏油が気にかけるのは当たり前だった。
『いいえ』
夏油の言葉に、さっきまで情けない顔をして泣いていた表情が真剣になり、夏油を見上げた。
同時に奈緒の腕が夏油の腰から離れた。
『……私は夏油先輩に見つけて貰って高専に来るまで、訳の分からない異形の姿を見ることが苦痛でした…。それを誰にも分かって貰えなくて、自分がおかしいのかってずっと苦しかったです』