第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
奈緒が夏油を引き留めてから変わったことがもう一つある。
菜々子と美々子が奈緒の使っている部屋に頻繁に遊びに来るようになったのだ。
「奈緒お姉ちゃん元気になった?」
「うん、おかげさまで、菜々子ちゃんと美々子ちゃんは学校どうだった?」
ランドセルからドリルと筆箱を取り出している菜々子はにっこりと笑って頷く。
「今日は体育でね、かけっこ一番だったの!」
「それはすごいね」
「美々子は算数のテストが100点だったんだよ!」
「美々子ちゃんもすごいんだね」
誇らしげに報告する菜々子と照れて肩をすくめる美々子。
2人はテーブルの上にノートを広げて宿題を始めたのだが、菜々子はすぐに「おやつ取ってくる!」と席を立ち、パタパタと駆けていってしまう。
自分が目覚めた時と同じ状況に奈緒は苦笑を漏らし、そっと美々子の方を見ると、こちらは黙々と机に向かっている。
が、途中で鉛筆が止まった。
考え込むように険しい顔をして、口を引き結んでいる。
「どこか分からないところがあるの?」
できる限り優しい声で尋ねると、美々子は小さく頷いた。
美々子の隣の椅子に座り、開いている課題を見てみると、国語の問題で正男という登場人物の気持ちを問いかけている。
「分からないのはここの問題?」