第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
「さて…少し怪我の具合を見てみようか」
「じ…自分で……っ…」
「無理はしない方がいい。まだ他の傷も癒えてないだろ」
「………すみません…」
夏油は跪く体勢を取ると包帯で固定している右足首に触れる。
包帯の留め具を外し包帯を解いていくと捻挫している炎症部分を見て顔を顰める。
そう簡単にはやはり治らないか…
すぐに新しい包帯を巻き直し、ふと肩から腕にかけて巻かれている包帯へと夏油は目を映す。
「げ…夏油さん……あの…」
「…なんだか…調子が狂うな…君を見てると…」
「っ…あの…夏油さんの知ってる私って……どんな感じだったんでしょうか」
「……今は自分の怪我を治すことだけ考えた方がいい。焦らなくても怪我が治って体力が戻れば…記憶だってすぐ戻る」
肩に巻いている包帯まで変えてもらうわけにはいかず、夏油と目線が合うと恥ずかしくなり言葉が出てこない。
そんな奈緒を見てか…
夏油はふと懐かしむような表情を浮かべて笑っていた。
ふと奈緒は考えた。
夏油さんの中の私はどんな存在なんだろう…
何も思い出せないけど…
少しでも…彼の知っている久織奈緒に近づきたい…
聞いていいかわからない質問に躊躇しながら、意を決して奈緒は夏油に自分の事を聞く。するとフッと笑顔が消えたかと思うと、夏油は優しく肩に手を置いて元気づけるように励ます。
彼の知っている私は…
一体何をしてどんな人間だったんだろう…
怪我が治ってもう一度同じことを聞いたら…
夏油さんは教えてくれるだろうか。
奈緒の心の中で献身的に看病をしてくれる夏油に、より一層自然に惹かれていった。