第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
拭き仕事・掃き仕事が一通り終わった奈緒は、ふうと一つ息をついた。縁側の先には手入れの行き届いた庭がある。
【お館様】と鬼殺隊士から慕われている産屋敷は代々莫大な財産を所有している、一族の頭領だ。
そんな彼所有の屋敷と言うだけあり、屋内はもちろん、屋外も産屋敷同様に品格が感じられる雰囲気となっている。
植えてあるのは桜の木だろうか。
剪定も行き届いており、奈緒は屋敷に入った時にその清潔感に驚いたものである。
「あっ、落ちちゃった」
汚れた布巾を洗おうと腰を上げた瞬間、洋袴の衣嚢(いのう=ポケット)から何かがポロッと地面に落ちた。
草鞋を履いた彼女は、庭に降りて転がった物を拾い上げる。
「今日も綺麗だなあ」
二本指で持ち上げた小さな玉を頭上にある太陽にかざす。すると光に反射した色が、奈緒の瞳をくぎつけにした。
それは生前、彼女の父が町に出かけた際に購入したビードロ玉である。
奈緒はこの色が好きだった。
ラムネと言う飲み物のフタに使われており、単品でも売られていた。
手元にあっても邪魔にはならないだろうと父親は判断し、購入したのだと言う。
素敵だ —— しかし、高かったのでは?
彼女の父は「そんな事ないよ」と奈緒に返答した。
『お父さんはああ言ったけど、それなりにしたんじゃないかな。だってこんなに綺麗だもん』
頭上から手をおろし、衣嚢に仕舞おうとした矢先に右横から声がかかった。
「君、誰?」
「えっ、あっ…」
驚きで入れ損なったビードロ玉が再びコロコロと転がる。
それは彼女に声をかけた持ち主のつま先にトンと小さく当たり、静かに動きを止めた。