第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
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「……そうですか……」
真夜中に久しぶりの知り合いから来る連絡は、総じて悪い知らせが多い。
漏れたのはたった一言だった。
そして通話を切る。
誰も居ない深夜のオフィスにカタンとスマホを置いた音が響いた。
この連日の残業によるストレスより、更に強い喪失感に七海は椅子に深く座り大きく息を吐いた。
この喪失感を味わいたくない為に呪術師を辞めたのだ。
一級呪霊が起こした事件に、久しぶりに後輩から聞いたかつての同級生の名前。
それを義理立てして知らせてきた伊知地に怒りをぶつけて良いかどうかも分からない。
『七海はいなくならないでね…』
2人だけになった教室にポツリと奈緒の声が聞こえた。
その時に確かにチラッと見た奈緒の横顔は、どんな表情だったか今はもう思い出せない。
結局、道を違える事になった卒業の日に、奈緒は振り返りもしないで離れていく背中に声を掛けた。
『七海、また会おうね!』
そう笑顔で叫んだ同級生の笑顔に、自分は何も言わず彼女の元を去った。
それが最後だと、そんな事すら考えていなかった。
デスクに置かれていた七海の手が、ギュッと拳を握った。
本当は知っていた。
この喪失感はいつも、そんな普通の日常の先に当たり前の様に存在していると。
「…クソが…」
ギリッと奥歯を噛み締めて漏れた声は誰に言った言葉でも無い。
強いて言うならば、こんな事が当たり前のこの世界がクソくらいだ。
五条さん……。
もう……。
アンタ1人でこの世界を終わらせてくれよ…。
こんな気持ちの時に思い浮かべるのはいつも。
あの孤高の頂に居る五条悟の姿だ。
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