第2章 【呪術】思い出は薄氷の上に
・
・
・
その日、夏油はある呪霊を取り込んだ。
酷い味のする真っ黒な球体を飲み込み、腹に収める。
少し前までは非常に嫌な感覚だったが、今はある目的のために呪霊を集めており、そのためならば多少どころではない味の悪さにも目をつぶる。
「……一級呪霊 漠(バク)か」
夏油の呪霊操術は取り込んだ時点でその呪霊の呪力量や術式が分かる。
アリクイのような姿をしたこの呪霊が持つ術式は『夢喰らい』
文字通り他者の夢を喰って消化してしまう術式だ。
夢だけではなく、記憶まで喰うらしい。
これは使いようによっては面倒な猿を黙らせることができる。
特に金を集めるうるさい猿にはうってつけというもの。
ただ、これほど強力な術式であれば既に何匹か飲み込んでいてもおかしくはない。
腹の中の猿の骨が何の拍子に出てきても気色悪いため、手っ取り早くここで吐き出させてしまおう。
取り込んだばかりの漠を出し、腹の中のものを全て出すよう命じる。
呪霊なので別に餓死することはない。
すぐに漠の喉がせり上がり、ガラガラと無数の骨が出てくる。
……予想以上に喰っていた。
積み上がっていく骨の山を眺める夏油が思わず眉をひそめていると、漠が何か詰まらせたのか苦しげに喉を掻き始めた。
祓わない程度に腹を蹴り上げ、詰まっていたものを無理やり出させる。
出てきた大きな塊は消化されかけの赤黒くなった肉に所々骨が見えている猿、
そしてスーツ姿の人間、
さらにもう1人、
見覚えのある顔の人間が出てきた。
夏油は目を見張って息を呑む。
この顔、この呪力、見間違えるはずがない。
「どうして君がこの呪霊に……!?」