第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
お、美味しい!
昨日食べたくりーむあんみつはその時の話題もあってあまり味わえなかったのだが、今日のおはぎは女将の言う通りあんこが絶品だ。
隣に座る無一郎も黙々と平らげている。
口元につぶあんの欠片が付いていてもお構いなしという様子にまひろの言っていた「かわいい」の意味が分かった気がする。
「ふふっ、無一郎さん、口元にあんこが残っていますよ?」
「え、気づかなかった」
奈緒が自分の右の口元を指差してあんこが残っている場所を示すと、無一郎は一瞬キョトンとしてすぐに右の口元を拭い始める。
「あ、反対です。こっち側」
ちょうど向かい合わせだったので左右反転で伝えたつもりだったのだが、間違って伝わってしまい、奈緒はすぐに言い直した。
二人の間になんともこそばゆい時間が流れる。
お茶を飲んで一息つくと、奈緒が無一郎に尋ねた。
「なんで今日一緒に来てくれたんですか?」
「また鬼に襲われるかもしれないでしょ」
「……昼間ですけど」
「この間だってまだ日の出ている内に買い物に行ったのに帰るのが遅くなったじゃない」
いつまた同じようなことが起こったら、と思うとついていく以外の選択肢は思いつかなかった。
また奈緒が鬼に襲われて、もし自分が間に合わなかったら?
……奈緒が死んでしまったら?
いくら強くなっても近くで守れなくちゃ意味がない。
いつの間にか無一郎の中での奈緒の存在はこれほどまでに大きくなっていた。