第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
そこへ突然、音もなく降り立つ人の影。
「こんなとこで一服なんて珍しいこともあるもんだな、時透」
「お、音柱様!?」
2人の目の前に現れたのは無一郎と同じく鬼殺隊の柱、宇髄天元だ。
あわあわと恐縮する奈緒の隣にいる無一郎を見てニヤリと笑う。
「……何か用?」
再びムッとした無一郎が突っぱねるように言い放つと、宇髄は肩をすくめた。
「ただの見物だよ、そんな警戒すんな。いつもぼーっとして何考えてるか分からねぇ霞柱が自分の専属隠にほの字って聞いてな」
「別にいいでしょ。宇髄さんこそ、そんなに暇なら鬼を斬ってこれば?」
「今は昼間だぜ、鬼は出ねぇっての」
軽口を叩いた宇髄だったが、その内心は驚愕しきりだ。
『霞柱が専属隠と付き合っているらしい』
隠達の間でまことしやかに囁かれている噂話を聞いた時、宇髄がまず思ったのはそんなことあり得ないだろうという否定だった。
刀を握ってたった二ヶ月で柱となった天才、
余計なものを削ぎ落としたような無比な太刀筋と同じく本人も感情の起伏がほとんどない。
そんな彼が色恋沙汰の噂と結びつくとは思えず半信半疑……いや、疑い八割だったが確信した。
これは本当だ。
これまで見てきた無表情から一変して感情が顔に出ている。
二人きりの逢瀬を邪魔するなと言わんばかりの不機嫌な表情は年相応の顔だ。
まさかあの霞柱をここまで変えるとは、
良い意味で予想を裏切られた。
無一郎を変えた張本人である奈緒は頬を真っ赤に染めて言葉も出ない様子で、お互いに本気であることが分かりやすく見て取れる。
「さて、珍しいもん見れたし、邪魔者は退散するかねぇ……っとその前に、」
宇髄は満足げに目を細めると、身を屈めて無一郎に何やら耳打ちした。
奈緒には聞こえず、首を傾げていると宇髄の姿は一瞬の内に消え、不機嫌な顔の無一郎が残されるが、おまけしてもらった団子を食べて綻ぶ奈緒の顔を見てその固い表情は幾分か緩んだ。