第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
降って湧いたような二人での外出。
隣に無一郎がいること以外はただの買い物なのだが、奈緒の心臓は全力疾走した後のようにずっと早鐘を打っており、どうすることもできない。
そして、外に出てからある後悔がこみ上げてきていた。
視線を落とすと嫌でも目に入る自分の服装だ。
いつもの買い物感覚で出てきてしまったので、隠の黒装束の上にエプロン、飾り気も何もない服だ。
こんなことならもっと可愛い服を……
いやいや、でもそんな格好をして無一郎さんに浮かれてるなんて呆れられたら凹む。
フルフルと首を振って今度はちらりと無一郎の顔を窺う。
無一郎さんはどうしていきなり一緒に行くなんて言い出したんだろう?
だがいつもの無表情でその真意はちっとも読めなかった。
「どうしたの?」
「い、いいえ!な、何でもありませんので!」
奈緒の視線に気づいた無一郎が首を傾げてこちらを覗き込みそうになり、慌てた奈緒は咄嗟に赤くなった頬を隠すように顔を背ける。
だ、ダメ、集中しないと!
このお買い物は任務、
ちゃんと遂行するのが私の仕事、しっかりしなくちゃ、奈緒……!
深呼吸しても変わらず心は落ち着かなかったが、奈緒は気を取り直して歩き出した。
一方、奈緒の隣を歩く無一郎は表情には出ていないものの、胸の中に重なる澱みを感じていた。
奈緒の様子がいつもと違う。
目が泳いでいて落ち着きがないし、顔も赤くなってる。
それに全然目が合わない。
それがなんとなく嫌で顔を見ようと思ったら、
「い、いいえ!な、何でもありませんので!」
そう言って勢いよく顔を背けた奈緒に無一郎の胸中は更に濁った。