第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
『あら? ため息?! これって絶対無一郎くんの事で頭がいっぱいなのよね!! どうしよう、興奮したらまた食べたくなって来ちゃったー!!』
「すみませーん! 桜餅三十個、追加でお願いします〜」
蜜璃の注文する軽やかな声は、奈緒の耳には全く届かなかった。
★
その翌朝、霞屋敷にて。
時刻は午前六時を回った所だ。奈緒は身支度を終えた後、朝餉の準備に取り掛かっている。
そこへギイ…と門扉を開く音が聞こえて来た。
『無一郎さんだ、行かなきゃ』
竈門の火を一旦止め、早足で玄関へ向かうと丁度屋内に入って来た無一郎がいる。隊服に細かな汚れは付着しているが、返り血を浴びていたり、怪我をした様子は見られない。
ほっと安堵感を味わった後、ただいまと声をかける無一郎から脱刀した日輪刀を受け取る。
「お帰りなさい、ご無事の帰宅何よりです。朝餉がもう少しで出来るよ」
「そう、ありがとう。凄くお腹すいてるから早く食べたい」
草履を脱いだと思えば、右手を腹部に当てて空腹をすぐに訴える霞柱に、奈緒は思わず笑顔になる。
「ふふ、わかったよ。居間に運ぶから着替えて来て下さい」
「あ、ねえ。君さ、今日はどこかへ出かける?」
何故そんな事を聞いて来るのだろう。
ふとした疑問が奈緒の脳内に浮かぶが、それはさておき —— 買い物へ行くと返答した。
すると……
「わかった。じゃあ僕も一緒に行く」
「えっ? あの、でも無一郎さん帰って来たばかりで疲れてるんじゃ……」
慌てて両手を胸の前で振る奈緒だが、無一郎は「全然疲れてない、一緒に行く」と念押しをした。
突然の申し出に気持ちがついていかない奈緒だが、ここまで訴える無一郎の気持ちを無碍にするのも申し訳ない。
彼女は主と共に、何故か出かける事になってしまった。