第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
かしこまりました ——
給仕に来た女子は、蜜璃の注文を戸惑う事なくさらりと受け止め、厨房へと向かった。
甘露寺蜜璃、そして煉獄杏寿郎の二人は鬼殺隊でも有名な健啖家なのである。
「恋柱様はこのお店の常連さんなんですね」
「そうね〜週に一度は来てるわね! 伊黒さんとも一緒に来るのよ」
「蛇柱、様ですか?」
「ええ、そうよ! でも伊黒さんはあまり食べないの。だけどね…私が食べる姿を見てると、気持ちが軽くなるっていつも言ってくれるの〜!!!」
それって…蛇柱様は恋柱様を??
奈緒は無一郎への恋心を自覚して以降、他人の恋心も何となく察知出来るようになっていた。
つい先日まで恋の事はまるっきり未知の世界だったが、今の彼女は違う。
「奈緒ちゃん? あんみつとほうじ茶来てるわよ」
「あ、申し訳ございません…ボーっとしてました」
「…もしかして無一郎くんの事?」
「…えっ、あの、どうして…!!」
恋柱はふふっと含み笑いをしながら、早速桜餅をパクパクと食べ始める。
「美味しいわあ」と口にする蜜璃の前からは、器に積まれていた桜餅が次々に消えていく。
対して奈緒は無一郎の事を指摘され、またもや味覚に意識が向きにくくなってしまった。
この店のくりーむあんみつは、幾田を始めとした殆どの先輩隠が「とにかく絶品」と絶賛しているのだが、彼女の脳内は今や【時透無一郎】に関する事だけである。
蜜璃が桜餅を三十個全て食べ終わる頃、奈緒もあんみつを食べ終えた。
『また…味がよくわからなかった…』
はあ……と深く長い息をはいた奈緒を見ながら、蜜璃はこんな事を思案している