第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「今日はありがとうございました。薩摩きんつば、とっても美味しかったです」
「奈緒ちゃんが心身共に元気で安心したよ。近くまで来たらまた顔出すね」
「はい、それじゃあまた」
門扉からまひろを見送った後、奈緒は屋内に入った。
今日はこれから街へ買い出しだ。
『大根が少なくなって来たから、買わなきゃ』
三十分後 —— 奈緒は大根を購入し、街中を引き続き歩いている。
幾田が持って来た薩摩きんつばの味がわかるようになったのは、実は彼女との話が終わり際に差しかかった時であった。
故にあまり満腹感がない奈緒である。
巾着を開き、自分の財布を確認してみると、甘味を購入出来る金額は入っているようだ。
『どうしよう…思い切ってお店で食べて帰ろうかな。それともいつも通り、買って帰ろうかな』
奈緒は甘味が大好きだ。
しかし大人しい性分の為、一人で飲食店に入って食事した事は殆どない。
甘味処の前まで歩いて来たものの、そこから一歩が踏み出せない。
やっばり持ち帰りをしよう —— 決心した奈緒は、引き戸に手をかける。
「奈緒ちゃん?」
「恋柱様……!」
背後から彼女に声をかけたのは、無一郎やしのぶと同じ【柱】の甘露寺蜜璃だった。
「誘って頂いた身でこんな事を言うのは申し訳ないのですが……ご一緒しても良いんでしょうか」
「勿論よ〜! 任務では何回も一緒になった事があるし、お話もしてるでしょう? 私、奈緒ちゃんとは一度じっくりお茶したかったの」
だから、こうして一緒にお店に入れて嬉しいのだ —— 蜜璃は花がパッと咲くような眩しい笑顔で手に持っている品書きを開く。
柱は何故か無一郎を始め、煉獄・しのぶと容姿端麗の人物が多い。
蜜璃も例に漏れず、外見は華やかだ。
桃色の中に若菜色が混ざっている長髪に小作りの顔。
先輩隠の前田まさおが作成したと言う、力作(珍作?)の隊服からこぼれ落ちそうな胸元。
そして蜜璃と言えば…
「すみませーん! 桜餅三十個頂けますか?」
「甘露寺様、いつもありがとうございます。桜餅三十個ですね。お客様はどう致しますか?」
「私はくりーむあんみつとほうじ茶をお願いします」