第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
安堵の笑顔の奈緒の目から、ポロポロと涙が溢れた。
大きな瞳から、溢れんばかりの涙は、大きな粒になってポタポタと地面に落ちていく。
笑顔だった顔の眉間に皺がよった。
無一郎が助けてくれた安堵感。
ぶり返してきた、さっきまでの恐怖感。
そして—。1年前に殺された両親の笑顔。
『ああ…無一郎さんがあの鬼を斬ってくれた…』
あの無一郎が、奈緒の事で夕霧に苛立ちを覚えながら。
「…ぅっ…無一郎さん…」
両手で口元を押さえながら、目を瞑って泣いている奈緒に、無一郎はしゃがんでその顔を覗き込んだ。
ゆっくりと伸びた無一郎の手が、そっと目元の涙を拭った。
驚いて目を開けて、見えた無一郎の表情は、少し悲しそうでもあり、奈緒を労わっている様にも見えた。
「…帰ろうか、奈緒」
無一郎の言葉に、奈緒はコクコクと頷いた。
けれども、抜けた腰がお尻を上げさせてくれない。
その様子を見た無一郎が、奈緒を抱き上げた。
「「!?」」
横抱きに抱かれて、無一郎の腕の中で顔を真っ赤にさせる奈緒を、銀子が物凄い形相で睨んだ。
「ナニシテルノヨ!無一郎!!」
バサバサと2人の頭上を叫びながら、くるくる回っていた。
「五月蝿いな、早く報告に行きなよ」
時折頭を爪で引っ掻いてくる銀子に、無一郎はため息を吐きながら言った。
「無一郎さん、歩けるよ!手も怪我しているのに…」
スタスタと歩いている無一郎に、奈緒慌てて言った。
「この方が早く帰れるし……怪我は戻ったら奈緒が手当して」
そう笑顔を向けて言う無一郎に、顔を赤らめながら、もう涙は出てこなかった。
戦利品の風呂敷に入っている柚子から、柑橘系の良い香りが2人を包んだ。