第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「無一郎さん!継子達が集まりましたー!」
そう言って奈緒はグイグイと無一郎の布団を握って引っ張った。
布団の中にくるまっている無一郎の体は、少しも布団から出てこない。
「……いいよ、どうせアイツら強くならない…」
布団の中でくぐもった無一郎の声が力無く聞こえる。
確かに先刻まで鬼狩りをしていたのだ。
ゆっくり休ませてあげたい気持ちはある。
だけど継子を育てるのも、柱の立派な任務だ。
ギューっと布団を引っ張っても、無一郎は出てこない。
奈緒は一旦布団を引っ張っていた力を緩める。
『こんな時は……』
「はぁ…無一郎さん…、今日の夕餉は……」
「ふろふき大根?」
奈緒が言い終わる前に、無一郎がバッと布団から出て来た。
無邪気な期待の目をした無一郎を見ながら、奈緒はニッコリ笑った。
「それは…『霞柱様』次第です…」
無一郎のよれた襟を直しながら、奈緒は言った。
「……すぐに終わらせてくる」
「…………」
すぐに終わらせてはダメだろう…。
奈緒は笑みを崩さずに、用意を始める無一郎を見ながらスッと腰を上げた。
「あ、奈緒」
部屋を出ようとする奈緒を無一郎が引き止めた。
自分の元に近付いてくる無一郎を、黙って見ていた。
奈緒の目の前まで来ると、無一郎はスッと奈緒の耳元に唇を寄せた。
「あのゆずの皮が乗ったふろふき大根がいい」
コソコソ話をする様に、優しい声色の声が鼓膜に響いた。
すぐに離れた無一郎の顔を見ると、大好物を食べることを夢見てねだる。
子供の様な笑顔の無一郎が居た。
その無一郎の表情に、奈緒目を細めて笑った。
「もちろん」
そう言って笑顔で無一郎の部屋を出て行った。
過ごしやすかった季節は過ぎて、外は昼間でも息が白くなるほど寒くなっていた。
だけどあれだけ冷たかった心の隙間は……もう無かった。