第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「何だかこれじゃあ話が終わらなそうな気がしますよ」
「? そうかな」
「はい」
苦笑しながら包帯を巻き終えた奈緒。
彼女は道具一式を治療箱にしまうと、改めて無一郎に向き合った。
「決めました。無一郎様がこれから木刀を折る度に、食事で出すふろふき大根の数を一つ減らす事にします」
「え? どうして? 意味が分からないんだけど」
霞柱は先程奈緒が、無一郎の事が心配だと告げられた時以上に困惑した。
木刀の調達は隠の業務だ。
手合わせで割れたりと言った事は仕方ないが、本来割れなくても良い時に壊れると言うのは、何だか割に合わない。
そんな事を奈緒が訴えると ——
「自主稽古で怪我するなんて本末転倒ですしね。私、今日まで沢山木刀を調達しましたが、結構大変なんですよ。何本も持つと流石に重くて…」
「もういい、分かったから」
奈緒が引き続き意見を述べると、掌を向けて静止する無一郎。
ふう、とため息をついた後は ——
「奈緒ってもっと大人しい子なのかと思ってた」
「本来はそうですよ。でもそれだとここでは駄目だなとよく分かりました。なので今後は思った事は口に出していきます」
完全に納得しかねる部分もあったが、ふろふき大根には変えられない。何せ無一郎の大好物なのだ。
「ところで君っていくつなの? 見た所僕とあまり変わらないように見えるけど」
「十五です」
「そうなんだ。じゃあ…」
次の瞬間、奈緒は無一郎の発言に目を見開いてしまう。
「無一郎様、それは無理です。私には出過ぎた事です」
「どうしても?」
はい、と強く頷いた彼女に霞柱は奥の手を放った。
「じゃあ上官命令。無一郎様呼びと、敬語はやめて」
「うっ…」
命令、と言われると隠の立場では逆らえない。
「外では今まで通りで構わない。でも家では普通にして。君もその方が良いんじゃない。ごはんだって一緒に食べてるし」
「……分かりまし…うん。分かった」
—— また二人を包む空気が、ふわりと柔らかくなった。