第4章 6つのお題から自由に選択
その時、背後の遠方から騒がしい声が聞こえてきた。
教祖の身を案じた万世極楽教の信者たちが集まってきたのだ。
「教祖様いらっしゃいますか!返事をしてください!何か起こったのですか!」
「こっちだ!音がするぞ!」
「きっと昼間うろついていた女剣士が教祖様の命を狙ってる!捕まえろ!」
信者たちの声が次第に大きくなり、確実にこちらへ向かう複数の足音がする。
「えー、ここまで来ると思わなかったなぁ」
童磨は戦いの手を止め、頬を掻きながら鉄扇を閉じて七瀬を見遣る。
「……全部で三、四人ほどか。
俺が食べ損ねたとはいえ……転がる死体、殺気立った剣士、一見丸腰の教祖。
修羅場になるのは必至だけど、今ここで俺に斬りかかってみちゃう?
それとも、この場に来る全員殺してしまおうか?俺はどっちでも良いよ」
七瀬の動きが止まった。
今の信者たちは、七瀬を疑い排除しようと躍起になっている。ここで童磨に攻撃を仕掛ければ、人間さえ敵に回す。
しかし、この鬼は七瀬もろとも信者を鏖殺(おうさつ)する可能性が高いのも事実で、脳内で焦りと迷いが堂々巡りする。
「人ってさぁ、自分の信じたいものを信じるからね。君も彼らも、その点は同類だ」
嘲る鬼の声が癪に障る。
自分は分け隔てなく人々を救うために戦っているというのに、その精神を踏みにじられた気分に胸焼けがしてくる。
「ほら、早く早く。俺の頚はここだよ。君の身長でも届くからさ」
嬉々としたその言葉に、七瀬は激昂した。
「……おまえ……っ!」
しかし、刀を振り上げた瞬間、彼女の手首に微細な迷いが生じた。
その一瞬の隙を、非情な鬼は見逃さなかった。
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