第4章 6つのお題から自由に選択
一閃。七瀬の胸を深く切り裂いて月下に赤が散る。
「あ……」
月明かりだけの宵闇の中でも見えるほど、おびただしい血が飛び散った。
「俺の言葉一つで心が揺らぐようじゃあ、頚なんて未来永劫斬れないでしょ」
嘲弄(ちょうろう)ではない。
鬼の本質が垣間見える、事実を突きつける抑揚のない声。
心臓を僅かに逸れたが、肋骨ごと肺を斬られた。
彼女がそう悟った時には、膝が折れ、刀の切っ先が地に触れる。
痛みは感じない。脈打つように強烈な熱さが広がった後に、血で気道が塞がる苦しみ。
致命傷だと察する。
「君が鬼狩りじゃなければ、傍に置いたのになぁ」
童磨は七瀬を見下ろしながら、まるで花を愛でるような優しい口調でそう言った。
七瀬は吐血しながらも、最後の力を振り絞って刀を握り直そうとした。
しかし、腕の神経ごと切断されたのか、もはや指の感覚さえない。
「苦しいよね?ほら、もう無理しないで」
童磨は彼女の前に膝をついた。
上辺だけの憐れみの感情が宿っている表情に、この男はどこまでいっても人ではないことを実感させる。
「安心しておくれ。俺が君を救ってあげる。俺の血肉となって、共に永遠に生き続けるんだ」
「……この、外道……ッ、お断りだ……」
彼女は鬼殺隊としての矜持から、精一杯の蔑みの言葉を最期に絞り出した。
「遠慮しないで。君のような気高い魂は、この汚れた世界にいるべきじゃない。俺の中でなら、永遠に純粋なままでいられる」
鋭い爪をもつ鬼の手が七瀬の頬に触れた。
氷のように冷たい指先だった。
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