第4章 6つのお題から自由に選択
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――丑三つ時の森の奥。
七瀬の瞳に映ったのは、対の鉄扇を持つ男が静かに立っている光景。煌々と照る月に映える白橡色の髪。
真っ赤な服に負けじと、足下には真紅の血が絨毯のように広がっていた。
今まさに喰らっている残骸が無惨に転がっている。
口元に血を滲ませながら、それは振り返った。虹色にも見える瞳が爛々と輝く。
「また来客かな。あ……嬉しいなぁ、女の子は美味しいから大歓迎だよ」
上弦の弐の鬼、童磨が優雅に扇をゆっくりと開く。
金属の扇は、月光を受けて禍々しく光っていた。
「やっと見つけた!許さない……万世極楽教の教祖を隠れ蓑に、どれだけの人を殺したんだ……!」
醜悪な鬼を罵る時間も惜しい。
鬼殺隊剣士――前世の七瀬が、日輪刀を構えて踏み込む。
水の呼吸を繰り出そうと構えた刹那、周囲の気温が凍てつく。
童磨は困ったように首を振り、扇を横に薙いだ。
「まぁまぁ、落ち着いて。食事って量より質が大事だと思わない?初対面だから、まずはご挨拶からかな」
瞬間、冷気が立ち込め、鋭利な氷の粒が七瀬の頬を掠める。
血鬼術だと瞬時に悟り後ろに飛び退くも、広範囲に散った細かい氷を少しだけ吸ってしまった。
喉にピリッと痛みが走る。七瀬が呼吸するごとに気管支が軋むような苦痛を伴い、初手のしくじりを自覚させる。
「俺は童磨。はじめましてなのに、どうして君はそんなに俺を憎むんだい?」
「……ケホッ……人を殺すからに決まっている!人を食う化け物を、憎まない理由があるものか!」
七瀬は間髪入れずに距離を詰め、袈裟切りに刀を振り下ろす。しかし、鬼は扇で軽やかに受け流した。
「俺は救っているんだよ。この世は苦しみに満ちている。愚かで弱い人間たちは、救済を求めて俺のもとへやってくる。俺は彼らを苦しみから解放してやっているだけさ」
そう言い放ち、化け物は愉快そうに笑う。
その笑顔には一片の罪悪感もない。
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