第4章 6つのお題から自由に選択
「七瀬ちゃん、顔色が悪いよ。ちょっと刺激が強かった?」
童磨の気遣う口調とは裏腹に、その瞳は微動だにせずにどこか冷たい光を宿しており、彼女を観察するような眼差しを向けている。
「それで、その伝説の興味深いところはね……」
気づけば、賑やかな場から離れていた。
神社より手前の地点だが、極端に人通りが減った細道に二人は居た。
童磨の声を聞くたび、七瀬は目眩がして足元がおぼつかない。
本能的にまずいと察知した彼女が踵を返すと、手首を掴まれた。
触れたはずの温もりは不思議と冷たく、食い込む爪は皮膚の奥に氷柱を差し込まれるような痛みを伴う。
「鬼は戦いの最中、剣士に語りかけたんだ。『なぜ君は俺を憎むのか』とね」
「……あ、相手は、何と答えたんですか?」
七瀬の声は恐怖で震えていた。なぜなら、この後に続く剣士の言葉が手に取るように分かる。
デジャヴにも似た奇妙な感覚に、彼女の呼吸が浅くなっていく。
「剣士は答えた。『人を殺すから』だと。すると、鬼は微笑んで言った。『俺が殺したのは、救いを求めし愚かな者たちだけだ。君が守ろうとする人間たちは、いざという時に君を守ってくれると思うかい?』」
童磨の声音は穏やかだった。
だが、その裏側に潜むものを、七瀬の内側は確かに思い出そうとしている。
記憶の底からせり上がる血塗られた光景が重なった。視界がぐにゃりと歪み、息が詰まるような錯覚。
次の瞬間、まばゆい光とともに、鮮やかな映像が脳裏に流れ込んだ。
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