第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
家族を鬼に殺され、深い傷を負ったこと、
日輪刀もなく、負傷した体で鬼を倒して、次に目覚めたら家族の記憶は抜け落ちていて……?
奈緒の脳裏に産屋敷の言葉が蘇ってきた。
『君だからこそ、無一郎の支えになれると信じている』
「……私、お館様から霞柱様の支えになってほしいと命を受けたんです。でも本当に支えられるのか、自信がなくて……」
任務に出る時も戻ってきた時もまるで存在しないもののように無視されて、名前を伝えたのに伝わっているかどうかも分からない。
毎日毎日心が萎んでいって……
記憶障害のことを初めて聞いて、その影響もあると分かっても完全には晴れない胸の中。
こんな自分が鬼殺隊の要である柱を支えるなんてできないんじゃないかと思えてくる。
湯呑みを両手で包み、更に俯いて肩を落とした奈緒にやわらかい声が降ってきた。
「久織さんはもう立派に時透くんを支えていますよ」
「え……?」
「彼は強くなること、鬼を倒すこと以外は無頓着ですからね、放っておいたら食事は最低限で済ませてしまいそうですし、掃除や洗濯などはもっての外でしょうから、貴女がいなかったら生活すらままなりません」
しのぶはコトリと湯呑みを置くと目を丸くしている奈緒に助言する。
「むしろ感謝してほしいくらい言ってもいいと思います。温かいご飯や清潔な服は勝手に湧いて出てくる物じゃないんですよって」
「そ、それは恐れ多いです……!」
あわあわと両手を振る奈緒を見て、しのぶはくすりと笑みを溢した。