第4章 6つのお題から自由に選択
「昔々、この辺りに村々が点在していた頃、人食い鬼が住んでいたという伝説があるんだ。
その鬼は非常に賢くて、ある宗教団体の教祖として村外れの森の奥に寺院を構えて、人間社会に紛れ込んでいたらしい。相当危ない奴だよねぇ」
七瀬の心臓が、ドクリと嫌な鼓動を刻む。
初めて耳にするはずのその話に、何故か強烈な既視感を覚えた。
「ある日、その鬼を退治するため、一人の剣士が現れた。けれど、その辺り一帯の人々は教祖を崇めている信者。危険を叫ぶ剣士を異端扱いし、排除しようとしたんだ」
童磨の言葉が続くにつれ、七瀬の頭の中に断片的な映像が浮かび始めた。
床に散らばる肉塊、広がる血溜まり、異形を斬り伏せる刀を握る手――……
「結局、その剣士は鬼に敗れてしまった。鬼の言葉に惑わされ、精神的に揺らいで隙を作ってしまったからだと言われている。
信者に騙し討ちされて、息絶え絶えの剣士を憐れんだ鬼が自らトドメを刺した……などなど、オチのバリエーションが諸説あるよ」
口に含んだラムネの味が分からない。
七瀬は胃が圧迫されるような吐き気に襲われ、口元を押さえる。
自分には関係ない話なのに、身体の底から悪寒にも似た震えが全身に広がっていく。
「面白い話だよね?でも、所詮は昔話」
童磨は穏やかに笑いながら、七瀬の肩にそっと手を置いた。
その瞬間、七瀬の脳裏に鮮明な映像が閃いた。
――自分の手から刀が抜け落ちる。むせ返るような血の匂い。そして、目の前に立つ男性。
隣にいる童磨と容貌が重なって見える。
「……っ、ああ……」
七瀬の喉からヒュッと微かな音が漏れた。
足が地面に縫い付けられたように動かない。
声にならない声を上げながら、脳細胞がすべて内側からめくれ上がるような混乱に頭を押さえる。
肌がひりつくような恐怖で脳内が真っ白になった。
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