第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
チュンチュン、ピチチ……
『朝、かあ』
奈緒は自室の硝子窓から差し込んだ陽光で、目を覚ました。寝ぼけ眼で壁掛け時計を見ると、時刻は午前七時を回った所だった。
布団からゆっくりと体を起こし、両腕を伸ばす。
『霞柱様が寝たのが確か四時頃だったよね。お昼から継子志望の隊士が来るって銀子さんが言ってたから…お声をかけるのは八時になってからで良いかな』
奈緒は今日一日の予定を頭の中で、丁寧に整理をすると、身支度をする為に布団からゆっくりと出た。
顔を洗い、歯を磨き、寝巻きから隠の制服へと着替える。
湯浴みは無一郎が自室に向かうのを確認した後、入ったので体はさっぱりとしている。
しかし ———
奈緒の心は体の清潔さとは反対で、ぬかるみに入ってしまったかのように澱んでいた。
『霞柱様にあの時、確かに名前を伝えたよね? どうして無視されたんだろう…』
これからやる仕事は山積みだ。
頭ではわかっているのに、体が上手く反応してくれない。
無一郎、それから銀子の態度を受け、奈緒の精神は大層疲弊していた。
「おはようございまーす、朝から申し訳ございません…」
その時、門扉の外から涼やかな音が彼女の耳に届いた。
『この声って……!!』
奈緒は藁にもすがる思いで、玄関へと向かった。草履を履き、開錠し、扉を開く。
玄関から門扉まで二連打ちに並べられている、飛び石を踏みしめながら門扉へ辿りついた。
木造の扉をガラリと開くと、そこには蝶の髪飾りと羽織を身にまとった小柄な女子が柔和な雰囲気で立っている。
「久織さん、おはようございます。近くまで来る用事があったので、こちらにも足を運んでみました。時透くんはご在宅ですか?」
「おはようございます、蟲柱様。申し訳ありません、霞柱様はまだ就寝中なんですが…」
「あら、ではちょうど良いですねー」
「丁度良い、のですか??」
隊服の釦(ボタン)は無一郎と同じく、金色。胡蝶しのぶが霞屋敷へ来訪した。