第1章 【鬼滅】霞屋敷のふろふき大根には柚子の皮が乗っている
「霞柱様…どうなされました?お声をかけてくだされば…」
「……………」
奈緒の問いかけに、無一郎はまた言葉が出ない様だった。
その様子を見て、1つの可能性が頭をよぎった。
「霞柱様…私の名前は奈緒です……」
声を掛けたくても、名前を覚えていないのでは無いか…。
そんな筈は無いと思いながらも、奈緒は試しに無一郎に伝えた。
「……それ食べていいの?」
無一郎は奈緒の言葉には応えずに、お盆の上の握り飯を指差した。
ああ少し……ほんの少し……。
心が折れそうだ……。
「……お部屋までお持ちいたします……」
奈緒はお盆をぎゅっと握って、目を伏せながら言った。
「ここでいい…」
無一郎はそう言って椅子に腰を掛けた。
奈緒はもう何も言わないで、無一郎の前にお盆を置いた。
無一郎が食事をする姿を、奈緒はただ黙って見ていた。