第3章 お題小説 Lemon
「怪我してるのに何言ってんの?血だって出てるし…」
「っ…怪我なんかしてねっ…!」
「ほら…立てないでしょ?」
「っ…!」
話しかけてきたその女は俺の足元に跪くと白いハンカチで足元を縛っていく。立ち上がり立ち去ろうとすると、痛みが走りその場に蹲ると的確に応急処置をされる。
その女は聞いてもいねえのに久織奈緒と名乗った。
学校の通学路でここを通っていた時に俺を見かけたと言っていた。
知り合いでもねえのにほっとけばいいだろ。
俺の事何も知りもしねえのになんで簡単に声がかけられるんだよ。
「最初に思ったんだけど…桜君の髪って…」
「……っ…なんだよ…なんか文句あんのかっ!」
変な女だと思っていると、無理矢理聞き出された名前をいとも簡単に呼ばれる。容姿の話をされると怒りが湧き立つように再び女をギロっと睨みつけながら声を荒げる。
結局、どいつもこいつも同じだ
他人は平気で外見で判断して拒絶する
興味本位で首突っ込んで鬱陶しい
歯をギリギリ噛み締めながら相手の返答を待っていると自分の耳を疑う言葉が入ってきた。
「……?いや…綺麗な髪だなって思って…眼もオッドアイなの?すごくカッコいいね。」
「っ…な…!」
初めて容姿のことを褒められ驚いた。
自分でもみるみる顔が熱くなるのを感じる。
俺の怒鳴り声にも怖がらず笑顔でニコニコ笑う女に言葉が出なかった。
それが久織奈緒との出会いだ。