• テキストサイズ

合同リレー作品集【鬼滅・呪術・ヒロアカ・WB】

第3章 お題小説 Lemon



放課後になると、雲行きが怪しくなり次第に激しい雨が降り始めた。
大半の生徒はうんざりとした様子を見せていた。
私もそのうちの一人だったが、何時かは止むはず。
それまでピアノを弾けばいいだけのこと。

誰も来ない旧音楽室は、静かで穏やかな時間が流れ、疲れた時や安心したいときによく来る。
誘えば彼も来てくれるし、たまにリクエストをくれるから時間はあっという間に過ぎていく。
知らない曲をリクエストされることが多くてその度に「じゃあ、弾けるようにしてください」って意地悪な笑顔を見せてくれる。
その顔が私は案外好きだったりした。

「奈緒さん」
「なんだい?」

この日のリクエストはとある映画のサウンドトラックだったが、案の定知らない曲だった。
困ったように眉を寄せれば彼は「じゃあ、薫さんの好きな曲で」なんてどこか楽しそうに笑った。
だから、激しく鍵盤を叩いてみせた。

「うわ、うるさっ」
「今の天気に合わせて弾いてるんだけど、お気に召さなかったかい?」
「うるさいのは雨だけで十分です……」
「それもそうだ」

お互いに顔を見合わせて白い歯を見せあった。
どのくらいの時間が経っただろう。
一時間くらいだろうか、ふと窓の外を見ると先ほどよりも雨は弱まっているように見えた。
時刻は18時を過ぎていた。
最終下校時刻までまだ時間はあるが、雨がまた強まるかもしれない。
帰るなら今しかない。

「吉野くん、そろそろ帰ろうか」
「そうですね」

玄関に行き、そっと手だけを外に出して雨の強さを確かめる。
傘が必要か不必要かで言えば必要ではあるが、多少濡れるくらいだ。
大した問題ではない。
そう思った時だった。

「僕、傘持ってるので途中まで送ります」

少しだけ頬を染めた吉野くんがカバンから折り畳み傘を取り出した。
二人入るにはあまりにも小さいが、彼の優しさや気遣いを無駄にしたくなかった。
なにより、私のことを思ってそう言ってくれたのが嬉しくて少し、ときめいた。


/ 124ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp