第1章 レイン・エイムズと同室の女
彼は決して不誠実な人間じゃない。まだ出会って数日ではあるが、彼の仕事への向き合い方や魔法を極める真摯な姿勢をみてきたし、何より私を守ると言ってくれた言葉に嘘がないことくらい分かる。
その彼が誓って変なことはしないと言っていた。そういった約束を無断で破るような人では無いと思う。
となれば、昨夜のあれは彼の中では変なことでもなんでもなく本当にただの興味本位に過ぎなかったという話。
3年生にしてそのピュアさは嘘やろと思わなくもないけど、両親もなくひとりで弟を支えながら神覚者になるほどの努力を重ねてきた人だ。色恋沙汰に無縁だったのも頷ける。
「そうつまり、深い意味など本当に一ミリもなかったのだ……」
言い聞かせるように呟いて教科書に視線を移す。
余計なことを考えて忙しい彼の手を煩わせたくはないし、向こうが何も考えていないのなら私も昨夜のことはもう考えないことにしよう。そうあれは犬とじゃれてただけ。大型犬。
触られてびっくりしただけで別に意識したとかではない。うん。よし。
そんなことよりも、苦労をしている彼の支えに少しでもなれるように、後輩として努力を続けていこう。
私は授業に集中しようとペンを走らせる。
次第に邪な思考は脳の隅へと追いやられていった。