第1章 *File.1*
「梓さんから貴女の話は聞いていましたので、あまり初めてと言う感じはしないのですが、僕は安室透です。これから宜しくお願いいたしますね」
「…安室、透?」
日曜日の午後。
ポアロのランチタイムが落ち着いた頃、初対面の彼女に手を差し出した。
「望月さん?」
「……」
ゆっくりと、大きく見開かれて行く彼女の瞳を見下ろす。
「……」
これは一体どういう反応なんだ?
俺がキミの話を聞いていたように、キミも俺の話を梓さんから聞いていたのではないのか?
「い、た」
「えっ?」
彼女が小さな声で呟いて、両手で頭を押さえた瞬間だった。
目の前で、その小柄な身体がぐらりと膝から崩れ落ちたのは。
「望月さんっ?!」
間一髪で受け止めはしたが、俺はただ、驚くことしか出来なかった。
「具合はいかがですか?」
「初対面なのに、ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんでした」
ノックをしてバックヤードに入ると、既に目は覚めていたのか、ソファに座っていて安心する。
「お気になさらずに。失礼します」
「はい?」
微妙にそらされていた視線がこちらに向くなり、伸ばした手のひらで額に触れた。
「…ふっ」
「!?」
「熱はないようですが、念の為に病院へ行きますか?僕の車でよければ、病院までお送りしますよ」
一瞬にして頬が真っ赤に染まったから、思わず笑ってしまう。
男性には余り慣れていない、のか?
『雪乃さん、すっごく可愛いのに、彼氏いないんですよー!ただ、前に勤めていた会社で色々あったみたいですけどねー』
梓さんの情報通り、確かに可愛らしいな、パッと見は。
色々=恋愛沙汰で、か?
「い、いえ。大丈夫です」
また、スイッと視線がそらされる。
何故?