第2章 海の底から
―夢主side(高専入学式から3日後)―
私の世界は、限りなくどこまでも暗い海底のよう。
今日も1人狭いアパートの一室で、ただただ天井を見つめている。
髪は年頃の女の子とは思えないほどにボサボサだし、体中痣だらけ、オマケに服も黄ばんだ白のワンピース
それも、ところどころ穴が空いている。
生まれてこのかた、外に出して貰えたことが無い。
もちろん学校も。なので私は15歳にしてひらがなの読み書きが辛うじて出来るくらいの知識しか持ち合わせていない。
そんな私を世間は馬鹿だと笑うのだろう。
でも外に出させて貰えない。
母以外と出会うことがないのだ、私には必要ないから仕方がないでは無いか。
母はシングルマザー。父は顔も名前も知らないが、私はどこぞのクソ野郎に無理やり孕まされて出来た子供らしい。
母は酒とタバコに溺れ、いろいろな男と遊び回ってほとんど家には帰って来ない。
たまに帰ってきたと思ったら、私を無言で痛めつけそしてまた一言も言葉をかけずにどこか知らない男の元へ行く。
―ガチャ
この音を聞くと無意識に体が強ばる。
(お母さんが帰ってきた...)
母はこちらに無表情のまま歩いて来ると、私の髪を強く掴んで風呂場へと引き摺って行く。
(ッ〜〜!!)
痛い怖い痛い怖い痛い怖い。
いつもより機嫌が悪いらしい。男にでも振られたのだろうか。
―バン!!
風呂場のドアを勢い良く開けると中に私を投げ入れるように掴んでいた手を離す。
蛇口をひねり、浴槽に冷水が溜まっていく。
その様子をぼーと眺めていたら、二の腕に鋭い痛みが走る。
母はただただ無表情で、いつの間にか付けたタバコの火を私の腕に押し当てていた。
「お...か...さん」
何日ぶりかに声を出したせいで上手く発声できず、酷く掠れている。
お母さん。そう口にした瞬間に恐ろしい程に母の顔が怒りに歪む。
あぁ、そうだった。母は母と呼ばれるのが心底嫌いなのだった。
やらかした。
母はまた私の髪を掴むと、もう十分に冷水が溜まった浴槽の中に私の頭を押し込んだ。
苦しい、苦しい、辛い
―ゴポォ―
吸っては行けないと理解していても、体は酸素を欲しがって水を吸ってしまう。
あぁ...死ぬんだな。
どこか他人事のようにそう感じた。
意識が飛びそうになったらいきなり水の外に出され咳き込む。