第1章 四葉のクローバー
円の先にあったのは一面の野原だった。
雪なんか少しも降っていない。どうやら随分と遠くに移動したようだ。
「これ……全部薬草なの?」
「そうだよ。必要な分だけ持っていくといいさ。……あ、ここうちの私有地だから窃盗にはならないから!」
しゆうち?
意味はよく分からないけれど、なんだか凄そうな響きだ。
「ありがとうおにいちゃん……! これでお薬がつくれるよ」
私は少しだけ薬草を拝借して、そのあと何度もぺこぺこと少年に頭を下げた。
自分の村はろくな薬草も生えないような辺境の地だ。これだけでもお宝のようなものである。
丁寧に懐にしまいながら、ふと私は少年の顔を見た。
「……そういえばおにいちゃんはどうしてあんな雪の中にいたの?」
「え、あー……。ちょっと家に居づらくて、外で遊んでたって言うか」
だとしても一人で遊ぶような天候ではなかったと思うが……。
とはいえ家に居づらくて外に出る、という感覚は私にも分からないものではなかった。もしかしたらこの人もまた、家庭で苦労をしているのかもしれない。
「おにいちゃん、これあげる。……創造魔法、『夢の具現化』!」
私の言葉に合わせて、手の中に小さな四葉のクローバー……を再現したレプリカが出現する。
私の魔法は想像したものを具現化させるというもの。とはいえ、下民の私には手で持てるような小さなものしか作れないのだが。
「四葉のクローバーってね、しあわせのしょうちょう? なんだって! これできっとおにいちゃんにもいいことあるよ」
「君……ありがとう」
少年は私が作ったハリボテのクローバーを受け取ると、そう言って笑った。
「わたしラルカ・マーリウって言うの。おにいちゃんの名前は?」
「え、あー。オレは……フィンラル。ただのフィンラルだよ」
「フィンラル……うん、おぼえた! 大きくなったら絶対、お礼に行くからね!」
そのあと少年……もといフィンラルは、魔法で私を家まで送ってくれた。
それが彼との出会いであり、私が魔法騎士を目指すことになる最初のきっかけである。