第1章 四葉のクローバー
「君、どうしたの? もしかして一人!?」
頭上から聞こえた声に目を開けば、見知らぬ少年が豪雪の中おろおろと慌てふためいていた。
綺麗に整えられた茶髪が揺れる。あどけない風貌をしているとはいえ、私よりは少し年上だろうか。
私はそれを見て、ついに天使が迎えにきたのかと思った。
「うん。あのね、わたし病気になっちゃったらしいの。だから薬草がひつようだったけど……まよっちゃった」
見知らぬ町の狭い路地の端。突然降ってきた雪を凌ごうとその場に座り込んでいたけれど、どうやらあまりの寒さにそのまま意識を失ってしまっていたらしい。
子供一人で薬草探しの大冒険なんてやはり無謀だった。
「えっと……ご両親はいないの?」
「うん。ままはずっと前にしんじゃった。おとうさんはわたしに興味ないみたいだから、一人で来るしかなくて。……わたしももうしんじゃうのかな」
「君……」
少年は複雑そうに俯いたかと思うと、おもむろに私の手を取り自身の手でぎゅっと包んだ。
冷えた手から優しい温もりが伝う。
「よく頑張ったね。……もう大丈夫だよ。その薬草、取りに行こう」
「え?」
「薬草がたくさん生えている場所なら覚えがあるんだ。__『堕天使の抜け穴』!」
少年の言葉に呼応するように、何もなかった空間が円形に裂けていく。その先がどうなっているのかはよく見えなかったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
そして握ったままの手を引いて少年が笑う。
「さあ、一緒に行こう!」
灰色の円の先に何があるのかは分からなかったし、この少年のことは名前も知らない。だけれどもなぜか恐怖は全くなかった。
私は少しの躊躇もなく、そのまま手を引かれて円の中に飛び込んだ。