第3章 臆病ものたち
この世界じゃ魔法の強さ=カッコ良さみたいなものらしいので、強い魔法騎士がモテるのも無理は無いのかもしれない。
でもフィンラルみたいな心優しいタイプだって日本にいたら絶対爆モテする。間違いない。私にはわかる。
ここ、クローバー王国でよかった……。
何となくしみじみとしながら、バネッサを見やる。
よく見たらバネッサ先輩もド美人だし、ライバルじゃなさそうで良かった。こんな人に勝てる気がまるでしない。
「それにしてもアンタも15のはずなのに、アスタに比べると随分落ち着き払ってるわよね〜。好みも年上みたいだし」
その言葉には僅かに苦笑しつつ、私は魔導書の表紙を撫でる、
「色んな経験をして来たんです。そのせいですかね」
相変わらず最期の方はあやふやなものの、受験や就活といった過酷な出来事は鮮明に思い出せる。
しかしそういえば私は何歳で死んだんだろう……もしかしてフィンラルよりものすごい年上の可能性とかあるんだろうか。分からないけれど、20代の記憶しかないのであまり長生きはできていないと思う。
いずれにせよ、死んだのは間違いない。そしてそれはおそらくこの世界の他の誰も経験していないことだ。
「……人はいつか死にますから。思った気持ちは口にしておかないと、後悔すると思うのです」
「まあ、達観してるわね」
「ふふ、そうでしょう。だから私、誰かに取られる前にアタックしちゃいます!」
勢いよく手を挙げれば、バネッサは「その意気よ。頑張りなさい」と頭を撫でてくれた。
ようやく同じ組織に入るまでに至れたのだ。もう絶対に大切な人を逃したりはしない。
「何の話してるの?」
するとふとバネッサの後ろからフィンラルが顔を覗かせる。と、私の顔を見て少し照れたように目を逸らした。どうやら私が言い逃げした一言にまだ動揺しているらしい。可愛い人だ。
「フィンラル先輩のいいところについてバネッサ先輩に聞いてました」
「ええ! なんでそんな話してるんだよ」
困ったような照れたような顔をする彼がたまらなく愛おしい。実はやっぱり純粋な人なんだろう、この人。
「私が知りたかったからです」
にこり、と微笑めば彼は照れくさそうにありがとうと答えた。