第4章 距離感 【巻島 甘】
好きと伝えて付き合って、でも今はどうしても自転車を優先してしまうと断言されて、それでもいい、私にだって夢中になったらケータイなんて一日電源切れてても気付かないことがあるし、付き合ったからって相手の全てを独占しようなんて思わないから全然気にしない、と弁解するように必死に答えてそして、すれ違った。
よくわからない。話していくうちに凄く好きになって、会うたびドキドキするから今も昔も変わらない気持ちがここにある。
なのに裕介君が自転車に夢中なのと同じように私も本に夢中で、けど共通の趣味じゃないからそれを話題にすることも一緒にそれを楽しむこともない。そのせいかな、初めこそはちょこちょこ送り合ってたメールも、だんだん間が開くようになって今や全くなくなった。今頃何してるかな?自転車だろうな。って、聞いてもないのに自己解決する毎日。だっていつもそうだった。休みの夜に今日何してた?って聞けば決まって何処其処走ってたって。聞き返されても本読んでたとしか言いようがない。だって事実そうだから。
会いたい、って一言が言えたらいいのにとは思う。けれど邪魔しちゃ悪いなって、どこか付き合ってるという関係に距離感があって本音はひとつも言えてない。
付き合うってなんだろう。恋人ってなんだろう。
もしこんな曖昧な関係が裕介君にとっていろいろと邪魔になってしまうのならいっそ、別れた方がいいのかもしれない、と考え始めていた。