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ネジを弛めたサドルに跨がる瞬間【弱虫ペダル】

第3章 暑さに溺れる【荒北 甘】


「ちゃんとこの借りは返すんだろうなァ?うちのできたマネージャーさんはヨォ」
「勿論です。今度奢りますから」
「いーや、そんな無駄遣いするくらいなら身体で払ってくれなァい?」
「スケベ」
「聞き捨てならねェな今のは。俺が助けた体だしィ?俺の好きにして当然じゃなァい」

近付いた顔は私の耳元に唇を寄せて、息をかけながら小さく囁く。ゾクゾクさせるようなそれに翻弄されて、胸が苦しくなる。

「だァかァらァ、エロすぎだってちゃんはァ」
「先輩っ…」
「本当に食っちゃおうかなぁ」

今にも唇が重なりそうな距離。突き放そうにもまだ力が抜けてて上手くいかない、なんて。そんな言い訳も通用しないくらい、私は先輩を受け入れるように大人しくした。

一台の車が先輩の背後に停まるのがわかって、先輩は一瞬ムスッとした。

「ざんねーん。続きはまた今度」

優しく額に唇が触れた。その直後、車に向かっておせーよ!と怒鳴る。駆け寄ってきた福富先輩に顔が赤いと心配されたけど、それとこれとは関係ないなんて口が裂けても言えない。熱があるのかと心配されて額に手が迫ってくると咄嗟に大丈夫です!なんて言って顔を背けた。
だって嫌だったんだもん。荒北先輩の唇の感触を拭われたくなかったんだもん。
そんな私を見て嘲笑う荒北先輩のことはいっそ殴ってしまいたいとも思ったけれど今回ばかりは許してやろう。続きを期待してるのも、力の入らない病人を襲うような人を好きになってしまったのも、みんな熱中症のせいなんだから。

fin.
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