第3章 黎明に溶ける ︎︎◆
みんなで朝食を食べ終わって、共有スペースでごろごろしていた頃。ゆっくりと流れていく時間を切り裂くように鳴った大きな雷の音が、鼓膜に響いた。
「…土砂降りだな。洗濯物大丈夫だっけ」
「五条は無限があるから大丈夫なんじゃない?」
「いやさすがに衣服には張れねぇからな」
硝子ちゃんが凛とした声で冗談を口にすると、すかさずツッコミを入れる五条くん。夏油くんは姿勢よくソファに座って、本を読んでいた。夏油くんの大きな手の中にあると、本がいっとう小さく見える。
「…そういえば悟、午後から任務じゃなかった?」
「あ、マジじゃん。…ったく、こんな悪天候の中呪霊狩りに行かなきゃなんねぇの俺…夢主の膝から離れたくねぇんだけど」
私の膝の上に頭を乗せて、お昼寝中のねこちゃんのようにごろんっと寝転がっている五条くんがそう呟いた。土砂降りの雨の中でも任務があるなんて大変だなあ……そう思った私は、五条くんを労わるように頭を撫でた。すると、気持ちよさそうに手にすり寄ってきてくれる五条くん。意外と甘えたなところもかわいい。
「安心しろ五条。夢主の膝の上は私があっためといてやるから」
「はぁ…!?ぜってぇダメだかんな!!俺の!!俺だけの特等席!!!誰にも譲らねぇ!!!」
「ッチ」
任務に向かう五条くんを、下駄箱のところまでお見送りすることになった。
「……行ってきますのちゅーは?」
「っふふ、そうだね。……目つむって?」
「ん」
この間、二人で一緒に見たテレビドラマの中で「行ってきますのちゅー」を目にした時から、五条くんにお願いされることが多くなった。まだかなーっとこちらを伺うようにそわそわしている五条くんがすごくかわいい。唇をそっと重ねると、満足気に傘を差して、雨の中に飛び出していった五条くん。
「気をつけてねー!!」
高専の門の前で待機している補助監督さんの車まで、全力でダッシュをしている五条くんの背中に、手を振りながら声をかけた。
傘が返事をするかのように、ぶんぶんっと横に振れる。今日も、無事に帰ってきてくれますように。