第2章 枢軸/逆ハー 夏の一番奪取祭り
私はひとつ息を吸って、
「……ま、毎日楽しそうです」
と、蚊の鳴くような声で答えた。
ふーん、と可もなく不可もない反応が返ってくる。
そこに、小悪魔的な色が差した。
「それじゃルートなら?」
「もっ、もう勘弁して下さいよ~!」
これ以上耐えられない私は、半泣きになって両手で拒否を示した。
どうしてこんなことになってしまったのか、さっぱりわからなかった。
どうこの場を逃げ出すか算段をとっていると、
「――俺だと、答えられないのか?」
背後から、いや地の底から声が湧き出した。
わかっていながら恐る恐る振り向くと、やはりルートだ。
一点の曇りもなく、真剣な表情をしている。
私は首をふるふると振って、その真剣さに見合う答えを出すしかなかった。
「えー……ルートさんは、いろいろ教えて下さったり、いいアメと鞭の使い手ですし、その、楽しくて規律のとれた生活が送れそうです!」
自分でもなにを言っているのか、よくわからなかった。
どう反応すればよいか迷っているのか、ルートの表情は変わらない。
果てしなく泣きたかった。
「……」
「……」
ふと顔をあげた先で、菊と目があう。
いや、無理やりガッと合わさせられた気もする。
空気読め、菊の顔にはそう書いてあった。
私は諦めを感じて、
「……菊さんは、同じ日本人ですし、一番落ち着けそうです……」
そう言うのが精いっぱいだった。
しばしの沈黙が漂う。
「つまり、さんは私といるのが一番いい、ということですね」
それを破ったのは、至極真面目な菊の断言だった。
「……はい?」