第1章 英/甘 マカロンの心得
:アーサーのことものこともどっちも好きな兄ちゃん視点
「マカロン作るの手伝ってくれない?」
突然の、彼女からの頼みだった。
聞けば、最近恋人のアーサーが忙しくて大変そうだから、元気づけたいのだとか。
あの坊ちゃんが食べるであろうマカロンなど、果てしなくどうでもよかったが。
の願いとあらば、断れるはずがなかった。
「ありがとうね、本当に助かった!」
「ちゃんの頼みなら、お兄さんいつでも力になるよ」
「またまたー」
屈託なく笑う。
その笑顔に、胸の奥が微かにズキリと痛む。
下駄箱を出ると、背後で派手な音がした。
がなにかを感づいたように振り返る。
そこには、案の定アーサーがきまりが悪そうに立っていた。
「アーサー!」
「よ……よぉ……」
英国紳士さまがどうしたのやら。
恋人にそんな態度をとって――と、そんな腐れ縁を自分も続けていたことを思い出す。
苦笑とともにため息がもれた。
やれやれ、お膳立てが大変だ。
「それじゃ頑張ってねちゃん。また明日~」
「あっフラン!」
これ見よがしに、額にキスでも残していけばせいせいするのだが。
フランシスは、の頭をそっとふれるように撫でただけで、背中を向け歩きだした。
「はぁー……なんつー損な役回り」
やれやれと首をふる。
やっていられない。
しかし、や腐れ縁の力になりたいと思う自分もいる。
――いつか、彼女は振り向いてくれるだろうか?
「……あいつが手放すはずない、か」
繰り返されてきた自問自答。
そして変わらないこたえ。
もう一度、大きなため息が出た。
「あー眩し」
燃え尽きそうな夕陽に目を細め、フランシスはひとり帰路をたどった。