第8章 孤独を満たす
外で鳥がさえずり始めた頃、結は風呂を上がり、じくじくと痛む右手を庇うように抱えた。
湿り気の残る指で空になった鎮痛剤のシートをつまみ、ゴミ箱へ放る。
乾いた音が響くたび、眠気の残る頭に鈍い痛みがじわりと広がっていく。
昨日の敵襲事件を受け、今日は臨時休校だと連絡が来ていた。
相澤はまだ帰っていない。
玄関で待ち続けた夜の記憶は、もはや希望ではなく、痛みに近いものへと変わっていた。
台所には、今朝飲んだホットミルクの名残として、逆さに干された空の牛乳パックがあった。
気晴らしに外へ出ようと、最低限の物だけをポケットに入れ、部屋の明かりを落として玄関の鍵を回した。
学校とは反対の道を歩くと、ほどなくして見慣れたスーパーマーケットが現れた。
自動ドアの開く音とともに、ひんやりとした空気が頬を撫でる。
いつもと変わらぬ道、いつもと変わらぬ足取り。
右手の不自由さを気にしながらも商品を選び、ぎこちない動きで会計を済ませる。
「停止女」
自動ドアが開いた瞬間、背中を刺すような声が落ちる。
顔を上げた先には爆豪が立っていた。
半袖シャツに短パンというラフな格好で、片手にはレジ袋。
彼は眉間に深い皺を寄せながら歩み寄ってきた。