第16章 手放せない温度
公園を抜けて少し歩いた場所には、周辺で最も大きな広場が広がっている。
季節ごとにライブフェスやフードフェスが開催され、多くの人で賑わう場所だ。
今日はデザートフェスが行われているようで、軒を連ねた屋台には色とりどりのスイーツが並んでいる。
クリームやフルーツの鮮やかな彩りが陽射しを浴びて輝く。
甘い香りが風に乗り、鼻先をくすぐる。
視界の先では、子どもたちが笑いながらクレープを頬張っていた。
それを見つめる大人たちの顔もどこか柔らかい。
屋台に並ぶ人々の背中は次第に増え、押し寄せる波のように道幅を奪っていく。
「……チッ、前より人増えてンな」
広い場所のはずなのに、この人混みでは息苦しさすら感じる。
迷いそうだ――そんな不安がよぎった瞬間、結の体がぐらついた。
「わっ」
雑踏に押され、体が大きく揺れた。
足元がもつれて倒れかけた時、強い力で右腕を引かれる。
ふいに支えられた体勢が安定し、息をついた。
視線を落とすと、包帯に覆われた右手が大きくざらついた手によってしっかりと掴まれていた。
首元と同じように爛れた部分と皮膚が太い金具で繋ぎ止められている。
それが光を反射し、ちらりと瞬く。
結は驚くことも動揺することもなかった。
慌てる様子もなく、手元をじっと見つめる。
まるで、以前からこうして支えられてきたことを知っているかのように。
周囲の喧騒は続いていたが、男は何も言わずに前を向いて歩き始めた。
人混みの中で、その背中は頼もしく見えた。