第16章 手放せない温度
「……いつも思うんだけど、別の集合場所にしないの?」
「は? ンでだよ」
「だって君、すごく浮いてるから。また職質されなかった? 大丈夫?」
結は覗き込むように男の顔を窺った。
不機嫌そうな表情がそのまま顔に出ていて、思わず笑いがこぼれた。
「お前がもう少し遅きゃされたかもな」
「朝の公園にいたらダメな人の格好だもん。現地集合でもいいのに」
「遅れたヤツが文句言うな」
「ごめんなひゃい……」
軽く睨まれ、伸ばされた手が迷うことなく結の頬を引っ張った。
男の視線が顔から頭へ移ると、何かを見定めるように数秒離れた手がそのまま髪へ伸びた。
「……跳ねてんな」
「え、うそ、直してきたのに」
「ウソ」
「どっち……って、本当に跳ねてる……!」
男の視線に釣られて、慌てて頭に手を伸ばす。
その間に男はすでに歩き出していた。
結はバッグを探り、手のひらに収まるミストを取り出して髪を撫でた。
風に乗って水滴が頬を冷たくかすめる。
今度こそ寝癖が収まったのを確認し、駆け足で男の横に並んだ。
最後に会ったのはいつだっただろうか――今年に入ってから受験や高校の準備に追われ、顔を合わせたのは一度きりだった。
太陽が雲に隠れた寒い昼間。
冷えた空気の中、彼の隣にいると不思議と温かさを感じたことを覚えていた。
今は季節がめぐり、初夏の兆しを感じる。
湿度を含んだ風が吹き抜けるたび、木々の葉がささやくように揺れていた。