第16章 手放せない温度
『……そういや、前に言ってたヤツやってたな』
「行く!」
結は反射的に勢いよく体を起こした。
布団の温もりに後ろ髪を引かれながらも、眠気を振り払うように顔を洗って慌ただしく身支度を整える。
カーテンの隙間から洩れる陽の光が微かに浮いた寝癖を淡く照らしていた。
公園へ向かう道中、木々の葉がさらさらと擦れ合う音が耳をくすぐる。
高くなり始めた太陽が空を鮮やかな青に染め上げ、雲は遠く薄く伸びていた。
子供たちの笑い声が風に混じって通り過ぎていく。
待ち合わせ場所は結にとって思い出深い公園だ。
幼い頃に何度も遊び、男と出会った大切な場所でもある。
ブランコや滑り台のある広場を横目に見ながら、結は少し奥まったベンチへと向かう。
そこに、黒いコートに白いシャツという軽装な細身の男が座っていた。
口元には黒いマスクをつけている。
暇を持て余しているのか、携帯端末を取り出してはすぐにポケットへ戻していた。
マスクと袖口から覗く肌は、昔から変わらず火傷で爛れた痕を残している。
「遅っせェ」
結の姿を見つけると、男は眉をひそめて低く呆れたように呟いた。
そのままベンチの背もたれに身を預けるように伸びる。
長い足がズボンを引っ張り、わずかに覗いた足首にも同じ痕が刻まれていた。