第16章 手放せない温度
少しずつ人混みが途切れていき、熱を帯びていた空気がようやく冷まされていく。
風がそよぎ、舗道の匂いと甘く漂うクリームの香りが交じり合う。
目の前には、螺旋を描く白いソフトクリームが柔らかく光を帯びていた。
結は自然と足を止めて視線を注ぐと、引っ張られる形で男も足を止める。
わずかにバランスを崩したものの、彼はすぐに体勢を整えていた。
結はいつも通り一人分のソフトクリームを手にしてから男の姿を探した。
少し離れた場所に設置されたベンチで腰掛けていた男の背中が、ほんの少し沈んで見える。
「……もしかして、人酔いしちゃった? 大丈夫?」
人混みに強くないことを知っている結にとって、こうなるのは予想の範囲内だったが、気に留めないわけにはいかない。
ベンチにもたれて空を仰ぐ男の姿に、結は白く輝くソフトクリームをそっと差し出した。
「これ食べたら元気でるかも」
「いらねェよ、子供騙しの食いモン」
「ひどい言い方……でも、なにか口にした方がいいよ? 私、買いに行って――」
男はちらりと視線を向け、すぐに目を閉じた。
その仕草に結はわずかに眉を下げると、飲み物の屋台を視界に捉え、歩き出そうと足を踏み出した。
しかし、右腕をぐいと引かれ、体が不意に後ろへ傾いた。
「ん」
「な、なに?」
「くれンだろ?」