第16章 手放せない熱
「もういいだろ。ここまで追ってこねェよ」
「はあっ……君が、あんなこと、言うから……っ」
しばらく走り続け、狭い路地に入ると二人は足を止めた。
膝に手をつき、乱れた呼吸を必死に整えながら、ずるずると壁に背を預けてしゃがみ込む。
結は淡々と話す男を睨み上げたが、男はマスクをずらし、落ち着いた仕草で酸素を肺に送り込んでいた。
「目立つために体育祭なんか出たのか?」
「そんな、わけない……目立とうとしたのは、君の方……っ」
「カメラ向ける方が悪ィだろ」
男が隣に腰を下ろす。
距離は近いが、体温が触れ合うほどではない。
膝に肘を立て、手のひらで頬を支えたまま、結の顔を覗き込んでいる。
やがて男の口元が歪み、笑みが浮かぶ。
その表情は、面白い玩具を見つけた子どもに似ていた。
「それに、撮られて困ンのはお前だぜ?」
「私……?」
「ヒーロー志望が、“敵”と仲良くしてるって世間に知られてみろよ。ははっ、教師もヒーローも混乱して、面白ェことになるだろうな」
乾いた笑いが空気に溶けていく。
結は喉の奥がひりつくのを感じながら、視線を伏せた。
彼が“敵”であることは、最初から分かっていた。
偶然知った事実でも、裏切りでもない。
それでも、結は連絡を断たず、距離を置くこともしなかった。