第9章 悪役令嬢は美人
「あ、あのさ・・・少し小耳に挟んだんだけど。聞いてもいいかな?」
珍しくモジモジしたクラウド皇子。そして、更にもう一つ珍しいのはアルが傍にいないこと。一体、何を言われるのかちょっと怖い気がしないでもない。キャサリンはいい人だと言っていたけれど。
「構いませんよ。どんな事ですか?」
「フェリシア嬢の友人に、凄く美人がいるだろう?」
まさかの、女の子の事。私の友人に美人?えっ、誰??嫌々、メリアとイリスが不細工だと言っているのではない。彼女たちは彼女たちで見た目はいい。友人としての欲目などではなく。
でも、一国の皇子が美人と口にする様な美人のカテゴリはどう?
「あの・・・誰の事を言っているのですか?」
「二つ隣りのクラスにいる令嬢だよ。ホラ、真紅の美しい髪の・・・。仲がいいと聞いたのだけど。」
「真紅の美しい髪?・・・えっ、まさか・・・キャサリンのことですか?」
「キャサリンと言うのか。その・・・以前、街で会った事があって・・・。」
クラウド皇子が、珍しく煮え切らない。ずっと、モジモジしている。でも、クラウド皇子はヒロインと懇意にしているのでは?
「クラウド様は、他に懇意にされている方がいますよね?」
責めるつもりではなかったけれど、ヒロインの信者なら申し訳ないけどキャサリンには近付けさせたくない。
「ん?私には懇意にしている令嬢はいないが?」
「でも・・・その・・・。」
「気になる事があるのなら、遠慮せずに言ってくれ。別に咎めたりしない。」
私は少し考えたけれど、キャサリンが言ういい人と言うのを信じてヒロインとの逢瀬の事を話した。
「トーマス嬢と私が仲睦まじくしているのを、街で見掛けた?・・・あっ!!」
何かを思い出したらしい。つい、私は皇子相手でもジト目で見てしまっていた。私は友人であるキャサリンを悲しませたくない。浮気なんか以っての外だ。
「ご、誤解だっ!!まぁ、端から見てそう見られていたことに驚きだったが、別に仲睦まじくしていた訳じゃない。あの日、セーランと待ち合わせをしていて久しぶりのこの国への訪問だったから地理を聞いていたら向こうから声を掛けて来ただけなんだ。妙に距離感が近くて、ちょっと不愉快…あ、嫌、今のは忘れてくれ。」